館長あいさつ

文化芸術は人類の精神活動のひとつであり、人の暮らしにとって欠かせないものです。アートが哲学のひとつであると考えると、言語であらわすものが哲学であり、視覚で表現されるもの、または言葉で補えない表現がアートを形成してきました。知性と感性の融合がアートを誕生させたともいえます。
そして、新しいアートセンターが宝塚に生まれました。その名は、「宝塚市立文化芸術センター/Takarazuka Arts Center」です。
美術館は美術作品を収集し、保存・研究・調査・展示・教育普及を行うことを目的としていますが、アートセンターは作品を収集しません。そこが美術館との最大の違いです。美術館は、美術作品を保存して未来に届ける「ノアの方舟」のような存在ですが、アートセンターは、今をより良く生き、未来に生きる喜びを届ける方舟なのです。
アートセンターの目的は、アートによって市民の相互交流の場を創造し、人々の文化的芸術的感性を磨くことです。地域社会をアートでつなぎ、活性化させ、文化芸術による「まちづくり」へと導きます。文化芸術は地域社会と融合し、共生することで新たな力を発揮します。それが生きる喜びです。「アート=生きる喜び」でもあります。
タカラヅカ・アーツ・センター。新しい時代にふさわしい多様な価値観の可能性を追求し創造しようとする試みが、アーツセンターという複数のアートを示しています。私たちはあらゆる表現活動を応援します。さらに周辺の教育機関と連携し、新たな創造的価値観に基づく文化芸術を創生させます。子どものころの芸術体験こそが、新たな価値観を生み出し、未来の社会に貢献すると言っても過言ではありません。
また、宝塚市立文化芸術センターは、「宝塚ファミリーランド」から「宝塚ガーデンフィールズ」という、宝塚の時間を記憶している庭園跡地にあります。庭園を中心としたイベントやワークショップは「人と自然」をテーマに、市民の暮らしに感動と出会いの場を提供します。
誕生は文化芸術センターの完成形ではありません。継続して育み、創り上げて行く覚悟が必要です。アートは市民の愛に育まれてこそ成長していきます。子育てと同じです。地域社会で文化芸術という子どもを育てようという話です。アートは心のビタミン剤であり漢方薬のようなもので、即効性はありませんが、時間をかけてじっくり、じんわりと心に効き目があらわれてきます。
シンプルに「アート=遊び心」と定義するとあらゆる方向性が見出せます。夢中になって遊ぶことから生まれる自由と創造という喜びは、子どもからシニア世代に新しいライフスタイルを提案できることでしょう。アートの自由な発想と遊び心の柔軟性が社会に生かされる時、目に見えて日常生活に役に立つものではなくても、アートは人々の生活に、人生に、生きる喜びという幸せをもたらします。

2020年4月19日
宝塚市立文化芸術センター 館長 加藤義夫